取組概要東北広域次世代がんプロ養成プラン

事業の概要

本プランの目的は、東北7県のがん医療の課題解決のため、顕在化するがん医療の課題や最新のがん医療に必要な学識・技能・研究推進能力を育み大学、行政、職能団体、がん診療連携拠点病院、患者会や学会が連携して個別化がん医療、希少がん・難治がん、がん関連学際領域など多様な医療ニーズに応えるがん専門医療人を養成することである。その実現のため、6大学院に新たに56教育コースを設置し、東北メディカルメガバンク、個別化医療センター、臨床研究推進センター、重粒子線がん治療センター、がん診療連携拠点病院、がんゲノム医療中核拠点病院、小児がん診療連携拠点病院等の大学インフラや、東北家族性腫瘍研究会、東北臨床腫瘍研究会、東北がんネットワーク、北東北がん医療コンソーシアム等、この地域の国内有数の関連組織インフラを活用した広域・先進的教育プログラムを実施し、がん医療提供体制を支える基盤として東北各県のがん対策に寄与する。

テーマごとの課題と対応策

テーマ① がん医療の現場で顕在化している課題に対応する人材養成

課題・対応策

東北は人口あたりの医師数、各種がん専門医療従事者数は総じて少ない。地域に8大学医学部があるが、緩和医療講座の設置は2大学のみで緩和医療専門医・認定医数は全国平均より少ない(特に福島、青森、秋田)。このためがん患者のQOL向上及び終末期医療を担う人材の養成は喫緊の課題である。放射線腫瘍学講座の設置は5大学あり放射線治療専門医数は少なくないが、一部のがん診療連携拠点病院で常勤の放射線治療専門医が不在である。また、東北全体で医学物理士が少なくIMRT実施率は全国最低レベルにある。さらに、緩和的放射線治療や核医学治療を行う核医学治療病床が少ない。神経ブロックを行う麻酔科との連携強化も課題である。メディカルスタッフとのワークシェア/タスクシフトや多職種連携による集学的な痛みの治療・ケアを担う人材の養成が課題である。東北では地域に定着する病理診断医が不足し、一部のがん診療連携拠点病院で常勤の病理診断医が不在である。また、がんゲノム医療に対応できる分子病理専門医のがん診療連携拠点病院への充足率は低く、その養成は全国同様に喫緊の課題である。そこで本プランでは、これらの課題に対応すべく大学院正規課程コース15コース、インテンシブコース10コースを新たに設置する。また、講義として新たに腫瘍関連学際領域特論や病理腫瘍学特論等を開設する。腫瘍循環器学や腫瘍腎臓病学、老年腫瘍学等のがん関連学際領域に対応できる人材養成は正にこれからであり、正規コースやインテンシブコースで幅広く選択・必修で履修できるように設定した。

テーマに関する強み

東北の緩和医療は、各県の拠点病院には緩和的放射線治療や神経ブロックが行える設備と人材はほぼ揃っている。また、東北大学には日本緩和医療学会の理事2名(1名は2022年学術集会長)(東北大学:井上彰、宮下光令)と同学会東北支部会長が本プランに参加し各県の緩和医療専門家と密に連携できる状況である。放射線腫瘍学講座設置は5大学あり放射線治療専門医数は少なくない。山形大学では東北・北海道初の重粒子センターが稼働し、東北大学には国内2番目の高磁場MRIとリニアックを融合した高精度放射線治療システムが導入され、福島では複数基幹施設で高精度放射線治療が可能であり、東北地方では高度放射線治療を習得するインフラがある。また、核医学治療病床利用に関する地域連携が構築されているほか、日本医学放射線学会北日本地方会代表世話人(東北大学:神宮啓一)が在籍しており、東北地方の各施設の放射線専門医や核医学専門医と連携が構築されている。医学物理士認定機構の理事(東北大学:神宮啓一)や医学物理学会の理事(東北大学:角谷倫之)も在籍し、各県の医学物理士と連携した教育体制が構築できる。東北大学は東北に医療機関間デジタルネットワークを構築し、日本屈指の規模で遠隔病理診断等の病理診断支援をおこなっている。日本病理学会東北新潟支部会は2日間の症例検討会を年2回定例開催している。この他、連携大学には専門医療人の少なさをチーム利用でカバーするための様々な県内多職種ネットワークが構築されている。がん関連学際領域(腫瘍循環器学、腫瘍腎臓病学、老年腫瘍学ほか)に関しては医療への導入に向けて、主導的立場にある日本臨床腫瘍学会の理事2名(1名は理事長)(東北大学:石岡千加史、福島県立医科大学:佐治重衡)と日本腫瘍循環器学会の理事1名(2021年の学術集会長)(東北大学:石岡千加史)が本プランに参加し、普及啓発のためのリーダーシップを発揮できる。このようながん医療に係わる種々の東北独自のネットワークとリーダーシップは、地域間格差や医療機関間格差を縮小し、がん医療の現場に顕在化する課題を解決するための基盤としてアドバンテージである。

テーマ②がん予防の推進を行う人材養成

課題・対応策

次世代のがんの1次および2次予防は、血液や腫瘍のゲノム等のマルチオミクス情報を利用した研究開発が必要である。ゲノム異常や関連する発がん分子機構を理解し、マルチオミクス情報に臨床情報を加えた医療ビッグデータに基づく次世代がん医療の開発の担い手と地域でこれを実践する専門医療従事者の養成が必要である。一方、北東北はがん死亡率が高く住民と医療従事者の啓発に加え、がん予防を担う人材養成は喫緊の課題である。本プランでは、東北大学が中心となり連携大学と共に、新しいがん予防や治療法を医療現場で実践できる人材を養成することにより、このような地方の啓発課題の克服を目指す。将来のハイリスク未発症者に対するサーベイランスや先制医療等の次世代がん予防・医療の時代に向けて、東北大学のインフラを活用し、遺伝の専門医・専門看護師や遺伝カウンセラー等の専門医療人、個別化されたがん予防医療を積極的に推進できる人材や解析専門家を養成する。そこで本プランでは、これらの課題に対応すべく大学院正規課程コース8コース、インテンシブコース8コースを新たに設置する。インテンシブコースはがん経験者の身体的・精神的・社会的ケアや再発予防等にあたる医療ソーシャルワーカー(MSW)やがん相談支援員などの人材の養成にも生かす。

テーマに関する強み

東北大学には、世界有数の地域住民コホート・三世代コホートの複合バイオバンク構築とゲノムを含むマルチオミクス解析の研究・教育拠点があり、ゲノム情報を含む医療ビッグデータ解析部門を有する個別化がん予防の研究教育基盤が構築されている。がんゲノム医療中核拠点病院である東北大学病院と共同で、令和4年度に国内で初めて未発症者の遺伝性腫瘍原因遺伝子(BRCA1/2とミスマッチ修復遺伝子)情報還元研究をスタートした。東北大学病院の個別化医療センター(2017年設置)クリニカルバイオバンクには、多数の複合検体が収集され臨床研究に利用されている。医学系研究科の未来型医療創成センター(2017年設置)では、マルチオミクス解析を担い臨床情報を含めた疾患ビッグデータ解析に独自に取り組んでいるほか、AMED革新がんの患者還元型全ゲノム解析の分担研究施設である。東北大学病院は連携大学で唯一、医学系研究科に遺伝医療学分野、病院に遺伝科と遺伝子診療部を有し、複数の遺伝カウンセラーを交えた遺伝性腫瘍の診療・教育体制が構築されている。東北地方には、1998年に福島医大と星総合病院が中心に発足した、東北家族性腫瘍研究会が遺伝性腫瘍の診療・研究の地域連携を担っており、同会の年次研究会は認定遺伝カウンセラー資格更新単位となっている。6連携大学附属病院中4病院は、がんゲノム医療中核拠点または拠点病院である。弘前大学には、共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)岩木健康増進プロジェクトでの住民コホートのメタゲノム解析研究基盤がある。全ての連携大学には、遺伝医療部門やがんゲノム診療部門が既に設置されている。このように、がん予防の推進を担う人材養成基盤にアドバンテージがある。

テーマ③新たな治療法を開発できる人材の養成

課題・対応策

がんの個別化医療を推進するためには、研究・医療機関の整備に加え、分子標的薬やコンパニオン診断薬、遺伝子治療薬等の創薬研究や新たな治療法の開発を担う大学等の研究者、臨床研究開発に従事する医療従事者や開発研究者の養成が必要である。東北では、医学部・薬学部を有する大学が研究拠点である。しかし、開発を担う研究者は少なく、その養成は喫緊の課題である。免疫チェックポイント阻害薬は適応が拡大し、さらにCAR-T等の細胞治療や2重特異的抗体などの新しい免疫療法の登場が予想され、それを担う腫瘍内科医をはじめとする免疫療法に強い人材の養成が必要である。そこで本プランでは、これらの課題に対応すべく大学院正規課程コース10コース、インテンシブコース5コースを新たに設置する。また、講義として新たに臨床腫瘍研究開発学特論等を開設する。

テーマに関する強み

臨床研究中核病院の東北大学病院は、臨床研究推進センターと臨床研究監理センターが設置され、専任教員他が学内外の研究者の臨床研究開発をプロトコル作成・倫理委員会申請・データマネジメントなどで支援するほか、研究支援者の教育にも取り組んでいる。個別化医療センターを中心に、個別化がん医療開発に取り組み、東北には8大学医学部と附属病院に臨床腫瘍学(または腫瘍内科)講座と腫瘍内科が設置されており、新しいがん治療薬の臨床開発や免疫療法を担う人材の教育コースが整っている。実用化に至った創薬研究の実績は無いが、東北大学ではAMED研究費や産学共同研究でエキスパートパネル支援システムを開発し実用化したほか、大腸癌治療薬選択のためのエピゲノム体外診断薬の開発に成功した(薬事承認申請準備中)。このように研究開発や新しい免疫療法開発を担う人材養成にアドバンテージがある

出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/)
「次世代のがんプロフェッショナル養成プラン(令和5年度選定)」を加工して使用