取組概要関東次世代のがん専門医療人養成プラン

事業の概要

3テーマに対してリーダー校を設置し活動を牽引する。①「支える多領域(千葉大)」では、がん医療を直接は主対象としない領域人材へのがん知識教育と、がん医療者への周辺領域の知識教育を行い、包括的にがん医療を豊かにする人材養成に取り組む。②「データ科学(筑波大)」では、診療ビッグデータを後方視的AI解析をしてがん予防に繋げるデジタル疫学に加え、デジタルデータを扱った未来の遠隔医療の実現に資する人材を養成する。③「治療イノベーション(群馬大)」では新規治療薬や、粒子線治療の開発を推進する人材を養成する。教育基盤として、過去15年に渡る全国がんプロe-learningをさらに発展させ、6科目のコンテンツを全国の拠点と連携して作成する。既にある2000以上のコンテンツと合わせ、ジュークボックス機能を活用し、各大学独自の教材とする。21世紀型の教育の共同実施の実例として、本拠点はその活動の中心的役割を担う。

テーマごとの課題と対応策

テーマ① がん医療の現場で顕在化している課題に対応する人材養成

課題・対応策

【がん治療を支える多領域人材養成コース】「リーダー校:千葉大学」
手術、放射線治療、薬物療法、がん緩和ケアなどがん治療に携わる医療者間の連携は概ね充実しつつある医療施設が増えている。一方で、疼痛緩和においては緩和的照射、神経ブロック、整形外科的アプローチ、精神的症状に対するアプローチなど、より多領域による医療連携の必要性が明らかである。また分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬による多彩な臓器障害に対してはアレルギー・免疫学、皮膚病学、呼吸器病学、消化器病学、循環器病学、腎臓病学など医学全般にわたる連携が必須となってきた。また高齢者は多くの合併症を潜在的・顕在的に有しており、多領域に渡る集学的アプローチが必要な典型例である。こうした中、アカデミアやがん専門の施設などを中心に、骨転移キャンサーボート、疼痛ケアキャンサーボート、免疫療法副作用対策チームなどを結成し、がん治療を支える多領域連携が実現しつつある。これらの取組みはより包括的で高度な疼痛ケア、がん治療の支持療法を提供する手段として期待されるが、これを全国的に発展させるためには、ある程度専門性をもった大学院教育全般においてがん教育を導入することが求められる。
本拠点では千葉大学をリーダー校として、“がん治療を支える多領域”をKey wordに掲げた教育コースを設置する。がん医療を直接は主対象としない領域人材へがん知識を教育する事と、逆に、がん医療者への周辺領域の知識教育を行い、包括的にがん医療を豊かにする人材養成に取り組む。教育資源としては、過去15年で培った全国がんプロe-learning(2000以上のコンテンツが収載され、合計1万人を超える学生の登録、100万回=20万時間を超える総視聴を記録する、世界でも類を見ないe-learningの成功例)をさらに発展させた“全国がんプロオンライン教育”を基盤教育素材として開発する。テーマ①に関係する教育科目として2科目(16コマ)を想定しているが、そのコンテンツ作成は全国11の採択拠点と連携して新たに行う。下記の想定項目以外にも、講義項目、講義数は拠点の採択と同時にWEB, メールベースで検討を開始し、2023年秋に開催する“全国がんプロオンライン教育キックオフ会テーマ①部会”にて決定する。システムが持つ1つ目の特徴である“マトリックス機能”を最大限に活用し、一つの講義項目に対して、すべての参加大学がコンテンツを提供する“教育の権利”を担保すると同時に、自大学が不得意な項目は他大学のコンテンツを利用する互換性を兼ね備える事で、講義項目が揃った科目を学生に提供する事が可能で、2024年4月からコンテンツが充実したオンライン教育システムの運用を開始する。
コース①で教育すべき講義項目として以下の様な項目を想定している。
・がんの支持療法概論・がん外科治療による主な合併症と合併症を有するがん患者の治療・がん薬物療法(殺細胞薬)による主な合併症と合併症を有するがん患者の治療・がん薬物療法(分子標的薬)による主な合併症と合併症を有するがん患者の治療・がん薬物療法(免疫チェックポイント阻害薬)による主な合併症と合併症を有するがん患者の治療・高齢がん患者の特徴とがん治療上の問題点・高齢者の機能評価と介入・腫瘍循環器病学(Onco-cardiology)・腫瘍腎臓病学(Onco-nephrology)・精神腫瘍学(Psycho-oncology)・痛みのメカニズムと薬理・終末期医療総論・死の生物学と死の人間学・鎮痛治療各論(薬物療法、緩和放射線、神経ブロック)・コミュニケーションスキル、チームビルディングなど
また、参加大学は、第3期までのがんプロ活動で作成されている2000以上のコンテンツも自由に使う事ができる。このe-learningシステムのもう一つの特徴である“ジュークボックス機能”を活用する事により、参加大学は各大学の学生に受講させたい項目だけをアラカルト的にピックアップして提供する事ができ、教育の独自性を保つ事ができる。e-learningによるオンライン教育だけでなく、各大学では実習、演習を効果的に組み合わせた総合的な人材養成を行う。
なお、2022年度はがんプロ予算が途切れていた所であるが、筑波大学で全国がんプロelearningの運用を継続して担った。さらに、本システムは3期がんプロまではmoodleをベースに構成していたが、システムの柔軟性、セキュリティーを担保する為に、2022年度に筑波大学で独自にfull scratchでプログラムを組み直す作業を行なった。2023年5月からはこの新しいシステムで“全国がんプロe-learning”を運用開始する予定であるが、約半年はシステムの検証過程を含むβ版の運用となる。2023年12月を目処に、新たな4期がんプロの教育科目を加えた“全国がんプロオンライン教育”のβ版の運用を開始し、2024年4月からが正式に新たな“全国がんプロオンライン教育”の運用開始である事を付記する。

テーマに関する強み

東北の緩和医療は、各県の拠点病院には緩和的放射線治療や神経ブロックが行える設備と人材はほぼ揃っている。また、東北大学には日本緩和医療学会の理事2名(1名は2022年学術集会長)(東北大学:井上彰、宮下光令)と同学会東北支部会長が本プランに参加し各県の緩和医療専門家と密に連携できる状況である。放射線腫瘍学講座設置は5大学あり放射線治療専門医数は少なくない。山形大学では東北・北海道初の重粒子センターが稼働し、東北大学には国内2番目の高磁場MRIとリニアックを融合した高精度放射線治療システムが導入され、福島では複数基幹施設で高精度放射線治療が可能であり、東北地方では高度放射線治療を習得するインフラがある。また、核医学治療病床利用に関する地域連携が構築されているほか、日本医学放射線学会北日本地方会代表世話人(東北大学:神宮啓一)が在籍しており、東北地方の各施設の放射線専門医や核医学専門医と連携が構築されている。医学物理士認定機構の理事(東北大学:神宮啓一)や医学物理学会の理事(東北大学:角谷倫之)も在籍し、各県の医学物理士と連携した教育体制が構築できる。東北大学は東北に医療機関間デジタルネットワークを構築し、日本屈指の規模で遠隔病理診断等の病理診断支援をおこなっている。日本病理学会東北新潟支部会は2日間の症例検討会を年2回定例開催している。この他、連携大学には専門医療人の少なさをチーム利用でカバーするための様々な県内多職種ネットワークが構築されている。がん関連学際領域(腫瘍循環器学、腫瘍腎臓病学、老年腫瘍学ほか)に関しては医療への導入に向けて、主導的立場にある日本臨床腫瘍学会の理事2名(1名は理事長)(東北大学:石岡千加史、福島県立医科大学:佐治重衡)と日本腫瘍循環器学会の理事1名(2021年の学術集会長)(東北大学:石岡千加史)が本プランに参加し、普及啓発のためのリーダーシップを発揮できる。このようながん医療に係わる種々の東北独自のネットワークとリーダーシップは、地域間格差や医療機関間格差を縮小し、がん医療の現場に顕在化する課題を解決するための基盤としてアドバンテージである。

テーマ②がん予防の推進を行う人材養成

課題・対応策

【がんデータ科学推進人材養成コース】「リーダー校:筑波大学」
がん治療の発展は目覚ましく治療成績は年々向上しているが、それと同時にがん罹患者数も増加しており依然として「がん」はわが国の死因第一位である。がん罹患者数を減少させるためには、個別化されたがん予防対策が重要であり、これにはビッグデータの利用が鍵となる。人工知能(AI)の登場により内視鏡診断、放射線診断、病理診断などデジタル医療データを用いたAI診断補助装置の利用やAIによるマルチオミクス解析が広がりつつあるが、次の段階として、こうしたリアルワールドデータを集積したビッグデータを利用したデジタルヘルスの構築が課題である。すなわち、膨大なビッグデータを元に個人毎にデジタルツインを構築し、シミュレーションすることで未来の変化を予見し未病段階で未来の罹患予測を立て個別化医療へつなげることがデジタルヘルスであり、全く新しい次世代の予防医学として期待されている。これからのがん医療を担うがん専門医療人にとって医療データを適切に取り扱い、これらを用いた研究の推進は必要不可欠である。
本拠点では筑波大学をリーダー校として、“がんデータ科学”をKey wordに掲げた教育コースを設置する。診療ビッグデータを後方視的AI解析してがん予防に繋げるデジタル疫学に加え、放射線、病理、手術画像などのデジタルデータを扱った未来の遠隔医療の実現に資する人材を養成する。教育資源としては、過去15年で培った全国ガンプロe-learningをさらに発展させた“全国がんプロオンライン教育” を基盤教育素材として開発する。テーマ②に関係する教育科目として2科目(16コマ)のコンテンツ作成を全国11の採択拠点と連携して新たに行う。講義項目、講義数は拠点の採択と同時にWEB, メールベースで検討を開始し、2023年秋に開催する“全国がんプロオンライン教育キックオフ会テーマ②部会”にて決定する。システムが持つ1つ目の特徴である“マトリックス機能”を最大限に活用し、一つの講義項目に対して、すべての参加大学がコンテンツを提供する“教育の権利”を担保すると同時に、自大学が不得意な項目は他大学のコンテンツを利用する互換性を兼ね備える事で、講義項目が揃った科目を学生に提供する事が可能で、2024年4月からコンテンツが充実したオンライン教育システムの運用を開始する。
②で教育すべき講義項目として以下の様な項目を想定している。
・データ科学の基礎知識・データマネージメント・AI、マシンラーニング (Machine learning)・バイオインフォマティクス・オミックスデータ解析・統計学・医療データのデジタル化(電子カルテ情報、DPC保険請求データ、処方箋情報)・小児/学童の健康診断データ、成人健康診断データ、人間ドッグデータとそのデジタル化・デジタル放射線診断・デジタル病理診断・手術室におけるデジタル化・予防/先制医療総論・成人の健康診断・生活習慣病 など
また、参加大学は、第3期までのがんプロ活動で作成されている2000以上のコンテンツも自由に使う事ができる。このe-learningシステムのもう一つの特徴である“ジュークボックス機能”を活用する事により、参加大学は各大学の学生に受講させたい項目だけをアラカルト的にピックアップして提供する事ができ、教育の独自性を保つ事ができる。e-learningによるオンライン教育だけでなく、シンポジウムやワークショップを定期的に開催し、実際にビッグデータを取り扱う際のノウハウや倫理的配慮に係る注意点まで具体的に学ぶ機会を設ける。

テーマに関する強み

本テーマについては、筑波大学が関東拠点の中心となり人材養成を進める。筑波大学では2017年に日本初のヘルスサービスリサーチに特化した「ヘルスサービス開発研究センター」が開設されており、予防医学から介護福祉までビッグデータ解析研究を実社会に還元する取り組みを継続的に行っている。
千葉大学には「予防医学センター」があり、6つの研究グループにより環境予防、社会予防など包括的予防医学の研究・教育活動を行っており、これまでWHOを含む複数の海外研究機関との協力事業を行っており、これら事業との連携を行う基盤がある。埼玉医科大学は北東日本研究機構:NEJグループの中心施設であり、多施設共同研究によるリアルワールド研究を迅速かつ広範に遂行する基盤がある。日本医科大学では、基礎医学や臨床医学の教員から構成される数理・データサイエンス・AI教育センターが開設され、医学部におけるデータサイエンスやAI教育を行っており、特色のある教育が提供できる体制が整っている。早稲田大学、東京理科大学とは連携協定校であり、医工連携研究を進めており、特にビックデータ解析に関する実績を有する。これら参画大学の基盤は本テーマを推進する上で大きな強みと考える。

テーマ③新たな治療法を開発できる人材の養成

課題・対応策

【がん治療イノベーション人材養成コース】「リーダー校:群馬大学」
がん医療は、これまで手術・放射線療法・薬物療法がその中心を担ってきたが、本邦の死因第1位を占めるがんに対する国民の意識と医療への期待は高まる一方である。そのため治療成績のさらなる発展は喫緊の課題であり、低侵襲手術の進歩、集学的治療の発展に加え、重粒子線治療の個別化医療に基づく臨床適応の拡大、分子標的薬・遺伝子治療薬・コンパニオン診断薬の開発、がんゲノム医療の臨床的有用性向上など、多方面からの精力的な取り組みが必要である。このようながん治療開発のためには、基礎研究で見出したシーズを新しい医療技術・医薬品として臨床応用するための、幅広い研究(非臨床から臨床開発に渡るまで)を行う、基礎的な知識と技術を有する人材養成が極めて重要と言える。
近年、免疫チェックポイント阻害薬は多くのがんの標準治療を一変させたが、未だに多くの患者は治療抵抗性を示す。新たなチェックポイント分子に対する阻害薬、さらにこれらの併用など新治療法の開発は目まぐるしい。また、白血病、リンパ腫、多発骨髄腫に対しては多くのCAR-T療法が既に保険診療として行われ、さらなる開発が進行中である。一方、免疫関連有害事象(irAE)、とりわけCAR-Tによるサイトカイン放出症候群(CRS)、特有の神経毒性(ICANS)の対応には、救急科、脳神経内科など、従来はがんの薬物療法に深く関わっていなかった多領域の医療人による強力な支援体制の構築、およびそのための人材育成が必須である。
本拠点では群馬大学をリーダー校として、“がん治療イノベーション”をKey wordに掲げた教育コースを設置する。免疫チェックポイント阻害薬を初めとした新規治療薬や、陽子線治療の開発を推進する人材に加えて、それらの副作用対策を担える人材を養成する。教育資源としては、過去15年で培った全国ガンプロe-learningをさらに発展させた“全国がんプロオンライン教育”を基盤教育素材として開発する。テーマ③に関係する教育科目として2科目(16コマ)のコンテンツ作成を全国11の採択拠点と連携して新たに行う。講義項目、講義数は拠点の採択と同時にWEB,メールベースで検討を開始し、2023年秋に開催する“全国がんプロオンライン教育キックオフ会テーマ③部会”にて決定する。システムが持つ1つ目の特徴である“ジュークボックス機能”を最大限に活用し、一つの講義項目に対して、すべての参加大学がコンテンツを提供する“教育の権利”を担保すると同時に、自大学が不得意な項目は他大学のコンテンツを利用する互換性を兼ね備える事で、講義項目が揃った科目を学生に提供する事が可能で、2024年4月からコンテンツが充実したオンライン教育システムの運用を開始する。
コース③で教育すべき講義項目として以下の様な項目を想定している。
・がん免疫療法イノベーション・がんリキッドバイオプシー イノベーション・低侵襲がん手術イノベーション・放射線がん治療ノベーション・ゲノムがん医療イノベーション・病理がん研究イノベーション・AIがん研究イノベーション・産学連携推進の方策・集学的治療によるがん治療イノベーション・がん治療イノベーションをめざしたトランスレーショナルリサーチ など
また、参加大学は、第3期までのがんプロ活動で作成されている2000以上のコンテンツも自由に使う事ができる。このe-learningシステムのもう一つの特徴である“ジュークボックス機能”を活用する事により、参加大学は各大学の学生に受講させたい項目だけをアラカルト的にピックアップして提供する事ができ、教育の独自性を保つ事ができる。
e-learningによるオンライン教育だけでなく、各大学では実習、演習を効果的に組み合わせた総合的な人材養成を行う

テーマに関する強み

がん治療のイノベーションのためには、臨床と基礎の双方向的な強力なタイアップが求められる。これまで群馬大では、がん診療バイオマーカー開発のためのトランスレーショナル・リサーチ、重粒子線のprecision medicineを目指した研究、免疫療法の新規動物実験モデルの構築、新たな免疫複合療法を見据えた基盤研究など、さまざまな先駆的な取り組みを臨床と基礎が共同で行ってきた。その他の参加大学においても、埼玉医科大学では、がん薬物療法、特に免疫療法のバイオマーカー探索として、CyTOFやシングルセルシークエンスなど血中の免疫細胞の特徴や各細胞の遺伝子情報を明らかにする研究、それに連動した病理組織を用いた遺伝子及び蛋白発現を解析する橋渡し研究を行っている。日本医科大学は、大学、全付属病院を含めた組織横断的に研究活動を統括する研究統括センターを有し、基礎研究成果をベースとした新規薬物療法や新技術に関する医師主導治験実績がある。また、全取組み大学で免疫チェックポイント阻害薬による治療が行われており、一部の施設では新規免疫チェックポイント阻害薬、CAR-T療法の治験を行っている。第3期がんプロまでの成果として全取組み大学で多職種チーム医療が充実しているが、irAE,CRS, ICANSなどに対応するためには、救急科、脳神経内科を含め全ての診療科を含む対策チームが必須である。群馬大・千葉大・日本医大・埼玉医科大学では既にこのチームの活動があり、CAR-Tの保険診療・企業治験でも多くの治療実績がある(千葉大など)。本コース専攻の学生はこれらのチームに参加した実習が可能である。本チーム未整備の取組み大学においても本事業を通じ2023年度中に整備を完了し2024年度からは実習が可能となる。また本事業における「がん治療を支える多領域養成コース」とも密接に連携する。
昭和大学では、医・歯・薬・保健医療学研究科の基礎研究、創薬研究、がんの臨床と治療に関する科目を横断的に履修し、新たな免疫療法の基礎と臨床と繋ぐトランスレーショナル・リサーチを企画・実践する能力を醸成する。

出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/)
「次世代のがんプロフェッショナル養成プラン(令和5年度選定)」を加工して使用