取組概要次世代がん医療を担う多職種人材養成プラン

事業の概要

本事業では①現場で顕在化している課題、②予防の推進、③新たな治療法の開発というがん医療のテーマを解決するため「専門的な多職種人材」を養成する。本事業の特色は首都圏の7大学においてチーム医療が実践できる多職種のがん専門医療人の養成プランを開発し、がんの予防、診断・治療、個別化医療、痛みのケア、サバイバーのケアなど全てのステージにおいて集学的治療が提供できる体制を我が国に構築することを目指す点にある。主要ながん種に加え、造血器腫瘍、小児がん、口腔がん、新規治療法開発なども対象とし、取り残される患者ゼロを目指す。本事業では歯学薬学領域を含む独自の14のWorking group(WG)を設置し、各校の強みを集結した共通コースによる教育を行うのも特色の1つである。これにより広く受講者を募り、多くの専門的人材を輩出し、地域中核病院等への配置が可能となり、がん医療の均てん化と質の向上に貢献できる。

テーマごとの課題と対応策

テーマ① がん医療の現場で顕在化している課題に対応する人材養成

課題・対応策

「誰一人取り残さないがん対策の推進」を実践していくためには、患者のニーズにあったきめ細やかな対応が求められる。しかし①患者の苦痛を理解し寄り添う痛みの治療・ケア終末期医療を担う専門家、②放射線治療病理診断がん薬物療法造血器腫瘍小児・稀少がん口腔がんがん口腔支持療法などを担う様々な職能を有する医療専門人、③高齢者や心・腎機能に併存疾患を有するがん患者への安全な医療の提供を可能とする学際領域の医療専門人が現場では必要とされているが、その数は不足している。本事業では参加校の連携を強化し、人材不足が顕在化しているこれらの専門家を養成して、本課題の解決を目指す。

テーマに関する強み

本事業では講義および各校附属病院の臨床現場にて、がん性疼痛を緩和するための各種アプローチ神経ブロック、緩和的放射線治療、緩和的外科治療など)、放射線治療がん薬物療法、細胞療法を含めた造血器腫瘍口腔がんがん学際領域等を学ぶ。各校がもつ強み・特性を集約した連携共通コースを受講することで、全受講者が同じコンテンツで、その領域の専門家による基礎から最先端の知識と技術指導を受けられるという強みがある。病理医養成ではデジタルアーカイブ化された教材の活用、分子病理診断システム・AIによる病理診断の習得が可能な環境を整えて指導を行うことも強みである。歯学部を有する大学が中心となり、がん口腔支持療法の基礎から多職種連携までを習得することもできるのも特色の1つである。これらの参加校連携のプラットフォームは将来の共同研究に活用することを想定しており、診療・教育・研究が可能な発展的な体制の構築を目指している。

テーマ②がん予防の推進を行う人材養成

課題・対応策

がんは我が国の死因の第一位の疾患であり、効率的な予防医療の確立は重要な医学的課題である。
医療ビッグデータを利用したAI技術の進展により、高精度の診断および予後予測法が開発されてきている。このような高精度の識別能・予測能をがん予防に展開させていくためには、医学や医療の視点からAIの原理を理解するがん専門医療人の養成が必要である。一方、このような予防医療の開発とともに、遺伝情報を患者とその家族に伝達する遺伝医療専門職の養成も同時に行うことが喫緊の課題である。さらに治癒率・生存率の向上が得られている中で、がんサバイバー・家族へのケアが大きな課題となっている。個別性のある医療・ケアの提供は極めて難しく、必要となる基礎的な知識と技能をがん診療に携わる多職種が習得することで、遺伝性腫瘍患者やがんサバイバーに対する誰一人取り残さない全人的なケアが可能となる。

テーマに関する強み

本事業では「医療ビッグデータに基づくがんの予後予測と予防」コースにて、①データプラットフォーム技術(多施設の連携に不可欠な連合学習)、②予測の医学(機械学習、深層学習など)、③医療生成AI(予後予測に基づく治療方針の基盤モデル)を学び、AI技術に習熟した医療人を養成する。このようにがん予防に関連するメディカルデータサイエンスを網羅しているのが本コースの強みである。「がん予防を推進する遺伝医療」、「がんサバイバーを支える多職種医療」の2コースでは、がん患者への対応に精通した遺伝医療専門職やその他の多職種による指導体制で、基礎から最新の知識と実践的な技能を習得することができる。またその中で多職種連携についても学び、チーム医療が実践できる能力を習得することを目指せる強みがある。

テーマ③新たな治療法を開発できる人材の養成

課題・対応策

腫瘍分子生物学の知見の蓄積により、個別化医療の礎となるがん遺伝子パネル検査や、CAR-T療法などの新規治療法が実臨床に導入されつつある。しかし、これら新規技術により恩恵を受ける患者は一部にとどまっており、依然としてがんは日本人の死因の1位を占める。がん克服のブレイクスルーを達成するには全ゲノム解析時代を迎え、個別化医療に精通し、基礎および臨床試験を通じて新薬や新規技術の開発と管理を担える人材が必要である。この課題を解決するため、がん治療薬の基本的知識、臨床研究の立案・計画、実施調整、関連する法規制について学び、これらの知識に基づいて創薬ないしレギュラトリーサイエンスを駆使して個々の患者の治療戦略も構築できる人材を養成する。また、医療統計学、ビッグデータやAIを用いたインシリコ創薬遺伝子療法細胞療法がんゲノム医療など最先端の医療技術開発など創薬研究に関する幅広い知識を持った人材も養成する。

テーマに関する強み

本事業の「個別化医療人養成」コースでは個別化医療の初学者が、基礎から最先端の応用まで一気通貫で学ぶ事ができ、また多職種連携も学ぶ事ができる強みがある。新規治療法の開発・創薬研究に関するコースでは各校の専門家による講義・実習を多職種の受講者に提供することで、それぞれの立場でがん創薬や治療へ寄与できる人材の養成が可能となる点が最大の強みである。特に多職種連携・チーム医療の実践力の習得するためにグループディスカッションやグループワークを取り入れ、施設間の垣根を超えた開発やミッション達成を目標とする。CAR-T療法や免疫チェックポイント阻害薬といったがん免疫療法を担う薬剤師を養成するコースでは薬学部教員、大学病院勤務薬剤師、がん薬物療法専門医・造血器腫瘍専門医から構成される講師陣による基礎から臨床までの講義・実習により高いレベルの実践力を習得可能となる。特に連携校にはCAR-T療法を含めたがん免疫療法を扱う基礎および臨床の講座が複数あり、最先端の技術や研究開発まで学ぶことができる強みがある。

出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/)
「次世代のがんプロフェッショナル養成プラン(令和5年度選定)」を加工して使用