取組概要地域をつなぐ未来世代のがん専門医療人養成

事業の概要

本事業では、中国・四国地方9県全域にわたる11大学が連携し、「誰一人取り残さないがん対策」を推進できる人材育成を目指す。過疎地での放射線治療や病理診断を担う専門医を養成するととともに、オンライン診療技術なども取り入れて連携体制を構築する。本拠点で推進してきたチーム医療による患者本位の全人的医療教育を発展させる。高齢者がん・緩和・在宅医療教育体制を再編し、老年腫瘍学・腫瘍循環器学の教育科目を充実させ、新たな関連分野にも対応できる医療人を育てる。がんゲノム医療にユニバーサルスクリーニングを導入し、がん予防医療を推進できる医師やメディカルスタッフを養成する。本拠点が得意としてきた遺伝子治療の創薬研究や免疫療法の開発を発展させ、医薬品や医療機器開発を推進する人材を輩出する。チーム医療やがん看護リカレント教育、医学物理士養成など、本拠点の強みをさらに発展させ、中国・四国のがん医療の均てん化に努める。

テーマごとの課題と対応策

テーマ① がん医療の現場で顕在化している課題に対応する人材養成

課題・対応策

広域にわたる中国・四国地方は多くの山間地や離島などを有しており、特にこれらの過疎化が進む地域では充分ながん専門医療人の配置ができていないのが現状である。高齢化が進むこれらの地域では在宅でのがん医療が中心となることが多く、がん患者本人のみならず、その家族も含めた療養生活の質の向上を目指す必要がある。本拠点では、多彩なニーズに対応する高度な専門性の習得のみでなく、がん患者や家族の社会的・身体的・精神的ケアを幅広く行う全人的医療教育を行うことで、集学的な緩和ケアを実践できる人材を育成してきた。今回の本事業では、さらに緩和的使用を含めた高度な放射線治療を担う専門医や迅速診断にも対応できる病理診断医などを積極的に養成していく。特に、光子線治療による高精度化が進む将来を見据え、陽子線・重粒子線治療にも対応できるよう履修内容を工夫する。また、コロナ禍で普及したオンライン・ネットワークを活用し、放射線治療医や病理診断医が常駐できない過疎地においても細やかながん医療が提供できるオンライン診療を実践できる人材を育成する。さらに、人工知能(AI)技術を応用した画像診断やがん再発リスク評価を学ぶ教育科目も整備し、未来志向の人材育成も積極的に行っていく。高齢者がん・緩和・在宅医療教育体制を再編し、系統的に老年腫瘍学・腫瘍循環器学などの教育科目を充実させることで、これらの新たながん関連分野にも対応できる専門医療人を育てる。

テーマに関する強み

本拠点では、全人的医療が実践できる人材の養成のために、患者会を初めとするがん患者やその家族も参画する多職種が連携した教育体制を整備してきており、本事業でも細やかな終末期医療を行える人材養成に繋げていくことができる。妊孕性温存習得コースでは、より具体的な方法や課題を学ぶことで、がん患者・がん経験者に寄り添える人材を育成する。がん専門看護師コースでは、すでに疼痛看護やリンパ浮腫ケア、がんサバイバーシップ支援などの教育を行ってきており、がん患者のQOL向上に大きく貢献できる。また、オンライン診療についても、本拠点の特徴である「チーム医療合同演習」で「デジタルトランスフォーメーション(DX)時代におけるがん診療の在り方を考える」のテーマで早々に取り上げており、今後その実践に向けてより具体的なノウハウを教育していく予定である。多様なニーズの一つである高齢者がんに関しては、第3期事業でもe-learningコンテンツを充実させるなど積極的に推進してきたが、新たに山陰地方からがん地域医療学など特徴的な教育科目を持ち、「老年腫瘍学」を得意とする島根大学が加わることで、さらに系統的な教育体制を構築することが可能となる。

テーマ②がん予防の推進を行う人材養成

課題・対応策

本拠点では、がん遺伝子パネル検査の普及によるがんゲノム医療の進展に伴い、積極的にエキスパートパネルへの陪席を推奨するなど遺伝子異常に基づいた個別化治療を実践できる専門医の育成を行ってきた。その過程で、偶発的に診断させる遺伝性腫瘍の未発症者の対応が不十分であることが明らかとなってきた。本事業では、新たに遺伝性腫瘍の遺伝子バリアント保持者を対象としたサーベイランスや遺伝カウンセリングに対応できる専門医・専門看護師の養成コースを多施設で共有できるコース(インテンシブコース)として設置し、倫理的・社会的課題を含めて学ぶことで、幅広いがん予防の推進につなげる。また、ユニバーサルスクリーニングの導入を検討しており、より専門性の高いがん予防や治療選択を学べる環境を整備していく。栄養学的視点からのがん患者の支援も重要であり、管理栄養士を対象とした「がん予防栄養学」などの履修科目も積極的に発展させていく。さらに、医療データサイエンスに関する教育科目を充実させ、臨床医の医療ビッグデータの解析技術の向上を目指す。

テーマに関する強み

本拠点では、がんゲノム医療の専門性と多職種連携の習得を目的に「がんゲノム医療人育成コース(インテンシブコース)」を実施してきた実績があるが、今回の事業ではさらに複数の施設が連携して履修科目を共有することで、養成人材の増加と教育内容の質の向上が期待できる。がんゲノム医療中核拠点病院である岡山大学病院は、中国・四国地方の20を越えるがんゲノム医療連携病院と繋がっており、またがんゲノム医療拠点病院である広島大学病院、香川大学医学部附属病院、四国がんセンターも積極的にがんゲノム医療を推進している。本拠点では、がんゲノム医療の推進を基盤として、がん予防医療を実践する専門医療人養成に最適な教育環境を提供可能である。徳島大学では、臨床腫瘍栄養学コースとしてがん病態栄養専門管理栄養士を育成してきており、新たにがん予防栄養学を履修することで、未発症者やがんサバイバーに対する細やかなケアを実践できるメディカルスタッフを養成できる

テーマ③新たな治療法を開発できる人材の養成

課題・対応策

分子生物学的ながん研究の進歩により、がんの遺伝子変異やシグナル伝達経路の異常が発がんや悪性化につながることが明らかになってきた。それらの情報に基づく個別化医療の開発が望まれているが、新たな創薬研究や医療機器開発には、充分な研究期間と承認審査までの段階的なプロセスの理解が必要である。本事業では、実際に開発段階にある治療用あるいは診断用医療シーズの臨床試験デザインの立案や実施計画書作成を体験させるとともに、レギュラトリーサイエンス教育を充実させることで科学的視点と行政的視点を習得させ、個別化医療の開発を推進できるがん専門医療人を養成する。また、がんゲノム医療と人工知能(AI)技術を融合したがんのリスク評価(再発予防)や高齢化社会に対応した体にやさしい遺伝子治療薬の開発、固形がんに対するCAR-T免疫療法の開発など、本拠点が得意としてきた革新的医療技術開発を経験させることで、未来世代にふさわしい領域の高度がん専門医療人の育成を積極的に推進していく。

テーマに関する強み

本拠点の連携施設では、様々な臓器由来のがんに対する免疫チェックポイント阻害薬を用いた免疫療法が、治験・臨床試験から実臨床レベルまで実施されており、がん薬物療法専門医による指導体制が確立されている。また、がん免疫療法に特徴的な副作用(irAE)を学ぶ「副作用マネジメントコース」などもすでに実施されており、がん免疫療法をより広く深く実践できる人材養成が可能な拠点と言える。さらに、中国・四国がんプロコンソーシアム内では、腫瘍融解ウイルスなどの遺伝子治療薬の創薬研究や新たな固形がんに対するCAR-T療法の開発、CTガイド下生検を行うロボット医療機器の臨床試験も進行しており、革新的医療技術開発を学び習得する教育環境が充実している。複数の大学発ベンチャーも設立されており、新たながん診断・治療法の開発を身近に感じることができる。

出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/)
「次世代のがんプロフェッショナル養成プラン(令和5年度選定)」を加工して使用